ハロウィンの葵さん一家(後編)


「まま~!おしゃしんとって~!」
「はいはいめいちゃん、じゃあ2人とも並んで!……ハイ、チーズ!」
 保育園は思い思いの仮装の子どもたちでいっぱい。中でも〇〇のキャラのコスプレは大人気! 気合いを入れて取り組んでいた小説が未完成のままで終わりそうなことは残念だけど、やっぱり娘の楽しそうにはしゃぐ娘の元気な姿は何よりの宝物。
――気を取り直して今日は1枚でも多くめいの思い出を残さないと……って、あ、あれは!?
「え、ええっ?!」
え、Lさんがいる?! 思わず2度見してしまう。 でも間違いない、あの男の子、Lさんのコスプレしてる……!
 インスタ映えする小綺麗で可愛らしい衣装とは対極のその姿。 アーマーはダンボールに折り紙を貼り付けたものだし、パーツの色はクレヨンで塗られてるし、全身ガムテープがペタペタとくっ付いているのがすごく目立ってる。 なのに全身から放たれる「今の俺はL」だという、この圧倒的なオーラ……!そして手にキラリと光るおもちゃのブレイド……! 推しに対する確固たる「信念」を感じる……!
「まま~!めいあっちでおともだちとあそんでくる~!」
「あ、ああ?!そ、そうなのねめいちゃん!うん、遊んでらっしゃい!」
めいは外で他のお友達と遊ぶことにしたみたい。最後まで私の言葉を聞くのも待たず、〇〇ごっこの輪に飛び込んでいく。……さてどうしよう。あの子に声かけてみようかな……。
「こんにちは~。ね、ねえキミ、ハイブレ好きなのね……?」
驚かせないようゆっくりと近づいて、男の子の目線に合わせてしゃがみ込み、出来る限り自然に声をかけたつもり、なんだけど。なんだかすごく緊張する。相手はちびっこなのに……。
「きさま……ただものではないな!……もしやあらたなブレイドのつかいてか……?!」
その子はスッとおもちゃのブレイドの切っ先を私に向け、問いかけてきた。私には分かる。(訳:おばちゃんハイブレ「分かる」の……!?)って言ってる。ていうかLさんのセリフ完コピしてる……!
「コラ!あんたそれ人に向けちゃダメだってお母さん言ってるでしょ!ど、どうもすみません〜っ!」
この子のお母さんかな?どこからともなく血相を変えて大慌てですっ飛んできた。
「いえいえ〜、大丈夫ですよ~。この衣装ハイブレのキャラですよね……?娘が大好きだったんですよ!」
「すみませんホント……失礼しました……そう、うちの子なんか未だに大好きで!も〜頑固で……どうしてもこれがいい!って聞かなくて。お友達はみんな、何だか新しいアニメに夢中みたいなんですけどね〜」
ああ……!わ、分かる……!みんなが離れてしまったジャンルに自分だけ沼ってて取り残されているようなその気持ち分かる……! 苦笑いするお母さんのお話を聞きながら、恐らく彼女の思っているのとは違う部分にうんうんと頷くしかない。
「衣装作りも、絶対自分で全部やるって言って聞かなくて、私や主人が手伝おうとしても嫌がるし……。 このおもちゃもワゴンでお買い得なのを買ったんです」
え?あ、じゃあもしかして、あのワゴンに入っていたやつを買ったの、この子なの?
「私は『どうせこんなのすぐ飽きちゃうんだから買わないの』って言ったんですけど、この子自分から『クリスマスのおもちゃガマンするからどうしても欲しい』って言うんですよもう……根負けしちゃって……。でも思った以上に一生懸命で……ヤダ、すみません長々とこんな話に付き合わせちゃって!」
「いえいえ!全然構いませんよ。すごいね、自分で全部作ったの?大変だったでしょう?かっこよくできてるね!」
心の底から賛辞を贈ると、その子は目の前でLさんの必殺技ポーズをバッチリ決めてくれたのだった。 その孤高な姿は、確かにLさんそのものだった。

 その日の夜。
「や、やった……!」
な、何とか間に合った!滑り込みしたあ~っ!
ハロウィンパーティーでモチベーションが上がりまくった私は、ハロウィン小説を見事ギリギリで完成させて投稿することが出来たのだった。 あの子がいなければ、この小説、仕上がらなかったかもしれないなあ……。 ちいさなちいさなLさんに、心の底から感謝しながら眠りについた。

Happy Halloween!