二月十四日、バレンタイン当日。
「むふふ〜」
もっぱら大人気ソーシャルゲーム『KTG』を活動ジャンルとしている腐女子、七瀬はつい先ほどバレンタインをテーマにした小説二篇をP支部とTwitterに投稿した。勿論カップリングは最推しであるD×E、そしてX×Yのものだ。特にメジャーCPでもあるD×E作品に付いたブックマークと「いいね」の伸びは目を見張るものがあり、彼女の胸は達成感でいっぱいだった。
　まだ投稿から一時間と経っていないにも関わらず、早速マシュマロをはじめとした匿名感想ツールには読者からのメッセージが届き始めている。メジャーCPだけでなく最近執筆に力を入れているマイナーCPのX×Yにも反響があり、七瀬の口は嬉しさのあまりにこにことして緩みっぱなしだ。
「いやぁ〜、またこの世に推しカプの作品増やしてしまった！それも二つ！私超偉いっ！」
　ただ、読んでくれる人に喜んでもらうことも大事だけれど、まずは自分が楽しむことが一番――七瀬はコンビニで買ってきたお菓子をポリポリとかじりながら、日課の萌語り検索をすべくスマートフォンの画面をスワイプし、Twitterのタイムラインを追いかけ始める。例え安物の大量生産品のチョコレート菓子といえども、バレンタイン・デーという日にお互いの愛を確かめ合う推したちに想いを馳せて味わえばどんな高級品よりも甘く、格別に思えた。
「それに最後までチョコたっぷりだし」
どこかで聞いたようなフレーズを呟いた七瀬の目にふと留まったのは綾城のツイートだった。
『今日、中島さんからチョコが届きました！ありがとうございます。』
「な、中島ァーッ！一体何を綾城さんに送ってるんだーッ！」
――よせばいいのに、ツイートをクリックした七瀬は見てしまったのだ。彼女たちが綺麗にラッピングされたチョコレートボックスの写真をお互いにリプライしているところを――。

その後しばらく謎の敗北感に七瀬が打ちひしがれていたことを、綾城もおけけパワー中島も知らない。

Happy Valentine's day…？