はじめはこんなことになるとは思ってなかったのだ。
きっかけは今ハマってるソシャゲのジャンル、KTGの推し(Eくん)と今年新しく始まった
アニメの主人公キャラのCVを担当しているのが同じ声優さんだったことだった。ツイッターのTLでRTされてきた
アニメ公式アカウントのキャラ紹介や、フォロワーさんたちの「まだ始まったばかりだし追いつけます!」という熱いプレゼンを眺めているときは
「やっぱ声帯がEくんと同じ人だしなあ~、主人公の子が最推しになるかもな~」
などと軽く思っていたのに。
動画配信サービスで一挙無料放送をやるというお知らせを見て、ほんの軽い気持ちで視聴したのに。
「いや、まだハマってない……まだハマってないから!」
と思っていたのに!
気づけば関連グッズやDVDを通販サイトでポチってしまっていたり、支部で二次創作を探し始めてしまったり……。 もはやどっぷりと沼ってしまっていることは疑いようもなかった。
いやここまではまだ想定内だった。私にとって完全な誤算、それは最初予想していたキャラとは
まったく別のキャラ……Nくんに落ちてしまったのだった。
もちろん主人公も、ほかの登場人物も魅力的キャラが多く、TLに流れてきたイラスト、小説、もちろんツイッターをやっていない人もいるだろうし支部の作品もチェックしては好みのものをブクマしている。 ただ、私の最推し絡みの作品はというと……少なくはない、むしろ彼は影のあるミステリアスなライバルポジション、彼が絡んだ作品は結構ある、あるのだが。 左右が逆!逆なのだ! み、右で書いている人があまりにもいない……!しかも私が萌えてしまった自カプ、(※主人公の親友Iくん
攻めNくん受け)に関しては全く無い、という状況で眩暈がした。
別に逆カプが完全にダメというわけでも「別カプ地雷です、左右完全固定です!」というほどではない。
推し絡みのイラストや漫画を描いてくれる人がいたり、小説もアップされていたりするのを見つけると嬉しい……が、やっぱり私は推しを愛でたい腐女子。はあ、推しカプ増えないものか…。
今日も腐向け作品タグで検索して新作増えてないかチェックしよう。 う~ん増えてるけど別カプの作品だった。あ、この人、この間好みの小説上げてた人だ!ブクマしておいて後で読もうかな。
「今日はこんなもんかな、そろそろ切り上げないと、このままだらだらと支部見ちゃいそうだし……」
KTGの次のイベントでまた本を出してみたいし、前回は締め切り前夜までエナドリを山ほど飲んで死にそうになりながら原稿していたし。あんなことにならないためにも、早め早めに原稿のネタ考えるのはもちろん、コツコツ作業を進めないと。
時間は二十三時前。 就寝する前にちょっとだけでもPCに向かおうとスマホのスクロールをやめようとした、まさにその時。
「ン……」
これは! 思わず自分の目を疑ってしまう。 まさか……夢じゃない? 推しカプの小説! この間探したら0件だったので「もういっそ自分で書くかあ~」とか思った推しカプの!?
あまりにも動揺してスマホを取り落としそうになった。 あ、あぶねえ~!
いやいやいやいや早まるな、そうだよ、タグ付け間違いとかかも、ひとまずキャプションを読もう。 そう思うやいなや、 食い入るようにスマホを覗き込む。
『アニメ見たんだけどNくんカッコいい~! でもNくん受け少ないよね! まだ始まったばかりだけどIくんとの絡みとかドキドキするし気になる! もっと増えないかな~?と思って書きました!』
えらい! えらすぎる! 思わずガッツポーズした後拍手してスマホに向かって拝んでしまった。
ああっ神様仏様作者様……私はキャプションを読み終わるとすぐに無我夢中でアップされた小説を読んだ。 活き活きとした描写に息を呑む。 ときめきのあまり動悸がする。 私が読みたかった、自分の頭の中以外で生み出されたI×N! あまりにも萌え滾りすぎて5回くらい初めから読み直した。
作業するという決意はどこかに吹き飛んで行ってしまい、気が付くと日付が変わっていた。
ああ~素晴らしい。 綾城さん以外の小説でここまで夢中になるのちょっと久々かも、他人の書く推しカプの威力は凄まじい。
ふう、と一息つくと、ひとまず気持ちが落ち着いた。いったい誰がこんな素敵な小説を自カプに? 早速支部からメッセージも送っちゃおうかな!
ウキウキした私だったが作者のハンドルネームを目にして真顔になる。
視界に飛び込んできたのは「中島」の2文字。
中島。中島ってあの中島? 憧れの綾城さんのリプライ欄で馴れ馴れしく語彙力の低い感想をしょっちゅう送りつけて絡んでいる、あの、おけけパワー中島?
「いや、でも、そんな、苗字っぽい、シンプルなHNの人なんて他にもたくさんいるし。 そんなこと言ったらほら、私だって『七瀬』じゃん……」
きっと別の人だよ。支部だってオタクの世界だって広いんだからさ。 そう自分に言い聞かせながらプロフィールページに飛ぶと、予想通りツイッターへのリンクがある。
ここを開けば、この人がどんな人か、分かる。 そうだよ、私が今まで気づかなかっただけで、他にも素敵なI×N語りをしているかも! ちょっと見てみるだけ……。
『アニメ見たらめっちゃハマって勢いでNくん受けの小説支部にアップしました~! IくんとNくんの関係なんかめっちゃ気にならない??? がんばって書いたので読んで~!! そしてもっとみんなNくん受け書いてくれたらおけけ嬉しいな💛』
「中島ァ!!!」
思わず大声が出てしまった。 我ながら近所迷惑すぎるな! アパートなんだぞここ! おのれ中島!!
ていうかやっぱお前かよ!! せめて今日これからツイッター見るにしても綾城さんが新作上げてないか最後にチェックしてから就寝したかったのに!! ああああぁ~んもう!このジャンル来てから初めての推しカプ供給に目が眩みすぎて作者が誰なのかを最初に確認してなかった……!
……でも。
この人の書く小説、お、面白いんだよなあ……。
「あっ……あああぁ~……!!! うぐぅぅぅぅ~!!!」
萌えと感謝、くやしさ、怒り……行き場のない感情がぐるぐるとないまぜになり、何とも言えない呻き声を上げながらベッドに突っ伏す。傍から見たらなんか珍獣めいてそうだな。 一人暮らしでよかった。
初めて中島さんの作品を読んだのは、彼女が綾城さんと出していた合同誌。 綾城さんの出した本は例えジャンルが違ってもどうしても全部読破したくて、前の前のジャンルのものを調べて通販でやっとの思いで手に入れた。 まさか綾城さんの作品を追いかけることで彼女の作品を手元に置くことになるとは思ってもおらず、とりあえず読んでおくかと目を通したのがきっかけ。
「こいつ気に入らないなあ」
「いつもいつも綾城さんに絡んでてほんとうるせーなぁ」
「字書きらしいけどさぁ、見るたびにマジで語彙力低いツイート垂れ流してるしこれでまともに小説書けるのかよ」
という負のバイアスが働いてる中、それも他ジャンルで読んでも普通に面白かったからなあ。
いや、普段のツイートはほんとなんかめちゃくちゃ癪にさわるけど。
しかしまだ比較的新しいジャンルとはいえ支部での0件を1件にしたのがまさかの中島さんとは……ていうか同カプかよ! しかも私も自分で書こうとは思ってちょこちょこメモ帳にネタ出しとかはしてたけど、この後に投稿するのこの人に触発されたみたいでこう……率直に言うと……。
「な、なんかムカつく……!」
思わずスマホを液晶が割れるかと思うくらいにぎゅううと握りしめてしまう。 この短時間で転落しかけたり拝まれたり握りつぶされかけたりしているスマホから悲鳴が聞こえてきそうだ。
いや、でも私もI×Nを書くことで、ひょっとしたらこのカプがもっともっと認知されて他にも書く人が増えるかもしれない! そうだ、やろう!私も投稿しよう!
自分でも書くつもりで書き溜めていたネタもたくさんあるし、例え短くても、駄作になっちゃうかもしれなくてもいい!
中島さんが最初の1件なら、私はこのカプの件数を2桁にしてみせる!
もともとKTGの本の準備にあてるつもりだった時間を全てI×Nの短編を形にする作業に費やし、通学時間はもちろん、ツイッターを見る時間も支部をチェックする時間も削り、私は本編の見直し、伏線、セリフ回しのチェック等もしながら、自分の萌えの全てを出し切るべくしばらくの間執筆に没頭した。 その結果、二週間ほどで十を超える作品を仕上げて支部にアップすることができた。
はじめのうちは達成感でいっぱいになり、これで自カプの尊さ、素晴らしさをみんなにも分かってもらえるはず……という淡い(嘘、全然淡くない)期待に胸を躍らせていた。
そう。 確かに投稿しまくってから、閲覧数もブクマも順調に増えていった。 非常にありがたいことに感想のメッセージを頂いたり、あまつさえ作品の宣伝もしてもらえたりした。(でも一番最初の宣伝ツイが中島さんによるものだったのでちょっと複雑だった)
だが、肝心の作品は……増えない!! いやなんでだよ?! 見てもらえるのはもちろんすごく嬉しいけど! 頼む!私はあなた方の書いた推しカプが読みたいんです……!!
私の願いも虚しく、しばらく支部のI×Nには私と中島さんの作品が交換日記よろしく交互にアップされる日々が続いた。
私が初めてI×Nで作品をアップしてから、2か月ほどが経過した。 ツイッターで推しカプの名前で検索してみても、たまに中島さんのツイートや私の作品の宣伝ツイートが出てくるくらいだ。 「いいですよね~!」って言ってもらえてるけれど、ブクマもだんだん同ジャンルフォロワーさんの義理ブクマに見えてくる始末。 I×Nメインで語ってる人とか作品アップしてる人が嘘のように全然いない……。 げ、現行ジャンルとは思えない寂れっぷり!なんでこんなマイナーなんだ?!ああ他の人も書いてくれないかなあ……。
ていうか……真剣に、推しカプについて語れる人が、欲しい。
TLでは作業通話募集の文字が飛び交っている。いいなあ楽しそうで。 あいにく私には推しカプ語り合えるような通話相手いねえんだよなあ。
和気あいあいとしたTLを眺めているだけでため息が出てくる。 本来だったら楽しい同人活動のはずなのに、どうしてこんなにも孤独なのだろう。 無人島に取り残されているような、はたまた誰も知り合いのいないパーティー会場にでもいるような気分を、私はツイッターでも支部でも味わっていた。
(いいやそれは違う、少ないけれども同じカプを好きな人、それも作品を上げてくれる人がいるだろう)
(知らないなんて言い訳が通じると思うな)
(つまらない意地なんて張っていないで、中島さんをフォローすればいいじゃないか)
(作品は全部読んでいるし、ブクマだってしている。 ならツイッターをフォローするのもたいして変わらない)
(交流が好きそうなあの人ならきっとフォロバしてくるはず)
(自分の作品の宣伝までしてもらってありがたいと思わないのか)
(お前は推しカプを一緒に語れる人が欲しいんじゃあないのか)
――自分に投げかける疑問の言葉が、頭の中で延々と鳴り響く。
でも。でも!でもでもでも!!
ううううう~~~~~~~っ!! あ、あ、あのおけけパワー中島を!! フォローする?!ツイッターのホームを見に行くたびに綾城さん関係のツイートでこちらの神経を逆撫でしてくるおけけパワー中島を? こ、こんなやつ視界に入れたくない~~~~~~っ!! 綾城さん情報のために仕方な~くたまに見るだけでも限界なのにフォローするとか論外だろ!!
……このところ、こうやって自分の提案を悩んでは却下する日々が続いている。 そう! 作品は好き! それはもう正直に認めよう。 しかし作品≠作者。 私はあくまでもこの人の書く作品が、I×Nの小説が好きなのであって、こんな人のことなんか……!
「ああもう……なんでよりによってこの人が同カプなんだろう?」
今日何度目か分からない溜息が勝手に口から漏れ出てくるし、ついでに目からも鼻からもしょっぱい液体が流れ出てきた。 I ×Nが好きで創作しているはずなのに、一体私はなにをやっているんだろう。
本来なら推しカプ語りの相手がいないことなんか気にせず、推しカプのことだけ考えて小説を書ければ充分な幸せなはずなのに。 私って実は推しを出汁にして他の人と交流したいだけだったのかなあ。 このジャンルだけじゃなくて、KTGでも、その前の、もっと前のジャンルでも。 自分では気づいてないだけで、そうだったのかなあ。 なんだか考えているだけで疲弊してきた、もう嫌だ……。
いっそのこと、一度このジャンル離れてみようかなあ。 そもそもの話、ここまでめちゃくちゃハマってしまったのが予想外だったし、KTGの本を出すならばいくらなんでもそろそろ本気で作業を開始しないと、とてもじゃあないが余裕入稿とはいきそうにない。
こんなモヤモヤ、ぐずぐずしてる状態で、自分の萌えをこれからもI×Nでうまく表現できるか分からないし。 もう決めた。半ば無理やりにでもいい、気分転換しよう、そうしよう。
前回のイベント参加は締め切りギリギリまで書いてて本当に大変だったけど、もう次こそはあんな思いはしたくない。 以下の私には一度仕上げたという経験があるから大丈夫、今度こそ余裕入稿目指して全力で執筆しよう。 そう考えてたら俄然やる気が出てきた!
善は急げ、鉄は熱いうちに打て。 くよくよ泣いてる場合なんかじゃあない。
まず先にもうサークル参加申し込んじゃおう。 退路を断てば、締め切りさえ設定すれば、あとは取り組むだけ!
「よし!気合い入れて書くぞ~っ!」
涙と鼻水でべちょべちょになった顔も洗ってすっきりしたし、自分に言い聞かせるために声に出す。 大丈夫、絶対にいいものができる、自分を信じよう。スマホを置いて、PCを立ち上げた。
あっという間にイベント当日を迎えてしまった。 やはりKTGに専念しての作業に没頭することは正解だった。
綾城さんが最近人気が出てTLでも話題の金ストのイベントに出る予定だということで、今回もKTGのイベントには参加されないというツイートを目にしたときは残念に思ったけれど、結果的に自分にとっては良かったかもしれない。 綾城さんに認めてもらえるようなものを書かなくては、なんて考えてたら更に頭がごちゃごちゃになりかねなかった。
なんだかすごく久々にD×Eを書いた気がするけれど、前回の同人誌発行初挑戦の時に比べてアウトプットする力が増した気がするし、もちろん原稿中は苦しいこともあったけれども、スケジュール管理も大体は予定通りに行ったし、めちゃくちゃ余裕入稿、とまではさすがにいかないけれども、締め切り3日前には脱稿できて最後にもう一度、原稿に誤字脱字がないかどうかチェックすることも出来た。 エナドリのお世話になりながら死に物狂いでPCに向かっていた以前を思うと、これは大きな進歩だと思う。
何よりも、実際に印刷された本が出来上がるとテンションが上がらずにはいられない。 この本は「この二人のここが好きなんだ!」という私の情熱が詰まっているのだから。
みんな、やっぱりこの瞬間が嬉しくて仕方ないから本を出すんだろうなあ。 今更だけど何度考えても尊すぎる~! そんな情熱の詰まっている推しカプの本をたくさん買えたことも嬉しいけれど、今日のイベントでは差し入れのみならず、なんと感想のお手紙も頂けた。すごくありがたい。帰りの電車でも気を抜くと顔がにやけそうになってしまった。
「はあ~ようやく落ち着いた……。 戦利品もひとまず整理したし、もらったお手紙読んじゃおうかな……」
ピンク色に花柄の便せんに書かれた可愛らしい、手書きのメッセージ。 なんだかいい匂いまで付いてたものだから、ドキドキしながら目を通す。
『七瀬さん、こんにちは。 イベント参加お疲れ様です! 七瀬さんのKTG本、今回もとっても楽しみにしていました!
新刊もですけれど、webで上げてたSSを再録した本もいつか出したいってツイート見たときはすごく驚きました!
紙の本で手元に欲しかったので、もし実現したらめちゃくちゃ嬉しいです!!』
「え、今回も、ってことは前も買っていただけてるんだ! しかもツイートも読んでもらってるなんて……うわああぁ~ありがとうございますっ!」
あまりにも嬉しすぎて独り言が出てしまう。あ、まだメッセージあるな。
『KTGのイベントなのに別ジャンルの話で申し訳ないのですが、七瀬さんの書かれるIくん×Nくんのお話、どれもとっても素敵で大好きです! どのお話もめちゃくちゃ萌えながら読ませていただいてます! これからも応援しています!』
「え……!」
ちょっとびっくりした。まさかKTGジャンルの人からIくん×Nくん創作について感想をいただけるとは思ってもいなかった。 自分でもこのイベント当日まで意識的に考えないようにしていた節があるから、なおさら。
でもやっぱり感想をもらえると、なんだか自分の頑張りが報われた気になる。 KTG本も確かに出したかったら書いたのは
本当だけれども、ちょっとI×Nから離れてみることで、自分が何のために同人活動をやっているのか、改めて見つめることができた気がした。
メッセージを読み終わり、ひとまずツイッターで「イベントお疲れさまでした!」の一言をTLに投下する。それから「今日はもう疲れてるし流石にツイッターを閉じようかな」と思ったけれど、ふとI×Nのワードを入れて一度、検索をかけてみた。
ひとつのツイートが目に入った。
『次のイベントでIくん×Nくん本出します!』
「え、中島さん、本出すんだ……!」
そのツイートを見て、KTGのイベントが終わったばかりだというのに、私の闘志に火が付いた。
中島さんが次のイベントで本を出す、それもIくん×Nくん本。 私も……私も出したい、今日メッセージをくれたあの人、そして何よりも自分のために! 最強に萌えるIくん×Nくんの本を出す!
実際に交流なんか無くても、普段語る相手がいなくてもいい、私はこの推しカプへの愛を本という形で世に出してみせる!
「はぁ~、サークル参加自体はもう3回目とはいえやっぱり会場来ると緊張する……」
KTGイベントも無事に終わってせっかく原稿生活から抜け出したのもつかの間、結局私はまたIくん×Nくん本のための準備に追われ、前回で進歩した! とか豪語していたのは一体なんだったのか、またまた締め切りギリギリまでPCに向かう羽目になった。 エナドリの缶をを何本空にしたかなんて、もう数えたくもない。
でも、ボロボロになりながらも頑張ったおかげで私の手元には、なんと、なんと、なんと! 夢にまで見たIくん×Nくんの本がある!!信じられない……誰だこの神本を作ったのは?! 私だったわ~! 私……偉い! 世界一偉い!
「おはようございます、七瀬さん」
「えっ?! あっ、お、おはようございます!」
わっ、ボーッとしてしまっていた。 挨拶してもらっているのになんて失礼なことを。 いけない、いけない。 あれ? この人、どこかで見たような。そう、確かKTGのイベントでお手紙くれた人じゃないか……?
「スペースお隣で見たときびっくりしちゃいました、KTGのイベントも参加されていたのに、また本出されているの、本当にすごいしお疲れ様です!今日のイベントも、とっても楽しみにしてました~。 後でIくん×Nくんの新刊、買わせていただきますね」
「えっ!そんな?! あ、ありがとうございます! 私も後で本買わせていただきます!」
嬉しいやら恐縮やらで、なんだかやけに声が上ずってしまった。 あれ、そういえば私の隣、しかもこのスペースって中島さんじゃなかったか。 絶対に買い物をする予定でチェックしておいたから覚えている、間違いない。 えっ、じゃあこの人まさかっ?!
「あ、あの!ももも、もし勘違いだったら申し訳ないんですけど……、KTGのイベントで、お手紙くださった方、ですよ、ね……?」
「あっ! 読んでくださったんですね! すみません、拙い感想で……七瀬さんの書かれるお話どれも好きなので、ぜひ感想をお渡ししたいなあと思ったので」
いや……? なんだその! うららかな春の日差しみたいな、眩しい笑顔は。 や、やめろ~~~~~~~~~~~~~っ!! その光属性全開のスマイルやめて!! 溶ける!! 灰になるっ!!
中島が、中島さんが、そんな、私に今まであんなあったかいメッセージ送ってくれてたのか?!
う、嬉しい、いや嘘っ、嬉しくないっ、いやそれも嘘っ!! あぁぁああ~なにこの状況は?!
「い、いえ!!拙いとかそんなこと全然ありませんっ! お手紙読んでいて、とても嬉しかったので!!あの、今日のイベント、一日楽しみましょう!」
なんか動揺してる割にはめっちゃ口から勝手に言葉が出てくる……!!
「そうですね、本当に楽しみましょう!」
な、なかじま…!! なんだ、中島ってい、いいひとじゃん……?!
なんだか絆されかけている私が、いた。
あとがき
多分人生で初めてまともに二次創作小説というかSSと言い張れるもの書いたんじゃないかな?って思います。でもまさか初めて書く二次小説が同人女の話になるとか思わんかった。同人女の同人やる女まだ?!!!!???? って散々言ってたけど自分も同人女の同人書く女になっちゃったよ。綾城さんが影も形も出てなくてマジでごめんなさい。 七瀬さんとおけ中島が遭遇してるのもごめんなさいだよ。でも綾城さんよりも会ったこともないおけけの発言でいちいちオワーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!ってなってる七瀬さんがかわいいみたいな共通認識あるじゃあないですか?
単行本読んだ人向けの話ではあるんですけど、これ読むと実は七瀬さんと中島さんもしかしたらワンチャン仲良くなれる可能性あるんでは????みたいに思ったしとりあえず書きました。ちゃんと自分文章書けるっていうか仕上げて公開できるじゃ~んみたいな自信になりました。やったぜ。