カーテンの隙間から差し込む日の光に、ナックルズはゆっくりと瞼を開けた。まだ夢うつつながらもリビングの方へと視線を移せば、シャドウの後姿が目に入る。湯を沸かすケトルと、換気扇の音。香ばしい匂いが寝室まで漂ってくる。ナックルズが起きたことに気付いたのか、彼はキッチンの火を止めるとベッドのそばにやってきた。
「おはよう。ちょうど君を起こそうと思っていたところだ」
シャドウはナックルズの額にキスをすると、彼の体を抱きかかえた。
「やめろ、自分で動ける。いつも言ってるだろ」
「いいから。ここに座ってくれ」
パン屑一つないテーブルクロス。その上に並ぶのはコーヒーと絶妙な焼き加減のベーコンエッグに、きつね色のトースト。さらにはリンゴの入ったサラダまである。すべてが完璧に整えられた食卓。まるでドラマのセットだった。
「さて、食べ終わったら今日は久しぶりに出掛けよう。どこでも、君の好きなところに。ほら、口を開けて」
ナックルズの向かいに腰掛けたシャドウは、リンゴをフォークで刺すと、彼の唇を優しくつついた。親鳥が雛に餌を与えるように。
「島に戻りたい」
シャドウの耳がぴくりと動いた。穏やかな微笑みは消え、眉間の皺が少しずつ深くなっていく。
「知ってるだろ。マスターエメラルドを守るのは俺の使命だ」
「守る?」
朱い瞳が、ナックルズをただじっと見つめている。
「その体で?」
シャドウの言葉はナイフとなって、ナックルズの胸に突き刺さった。彼の頬を、胸を、腹を、かつて愛し合った男の指がそっとなぞる。
「マスターエメラルドはいまやGUNの管理の下にある。これ以上、君が闘う理由も、傷つく必要もないんだ。……さあ、食事が終わったら、包帯を取り換えよう」
彼の手が、ナックルズの四肢に巻かれた布へと触れる。銀のスプーンに映るのは、恍惚とした表情を浮かべるシャドウと、俯くナックルズ。彼は呪うだろう。己の弱さを、現実という名の悪夢を、そしてこの歪な幸福を。もはや彼にはシャドウの手を振り払うことも、握りしめることも叶わないのだから。
——永遠に。
あとがき
例によって1000字以内というか、900字前後で収まる範囲で書いたネタ。今まであんまり病み系の話って書いてみたこと無いからチャレンジしてみたやつ。慣れてない感がすごい。自分で読む分には大好きなんだけど難しいよ……。
この話はそもそもの出発点が逆張りの極致というか、「ヤンデレ系の話で逆に『どこでも好きなところに連れて行ってあげたい』とか言い出すタイプってどうだろ」みたいな発想から始まった。結局、実際に書いてみて「束縛」というのは物理的な視点だけではなく「他人をコントロールすること」なんだよなって改めて気付きがあった。うまく言えんけど……。
物理的な監禁、束縛という点ではそもそもナックルズがもともとマスターエメラルドの守護者としてエンジェルアイランドに留まっているから、そういう意味では書くのが難しかったというか。
あと、他の要素としてはいわゆる四肢欠損ものなんですけど、ぼかしつつも、どこまでやっていいか悩んだな。うーん。好きな人には物足りないかもしれん。
あんま後書きで長々言い訳染みた解説するの良くないとは思うけど、この話、何らかの戦いに巻き込まれたナッコ(マスエメ絡み)で大怪我負って、で多分その原因が自分にあるせいで延々と自責を続けて、そもそもマスエメがあるからこんなことになったんだとかでおかしくなったシャドウ……みたいなイメージで書きました。でも究極生命体って多分メンタルも究極に出来てるんだろうなあ。いっそ狂えた方が楽なのに精神があまりにも強靭ってのはありそう。本当なら例え手足を失ったとしてナックルズは全然へこたれないだろうし、なんならテイルスに義手や義足くらい作ってもらえそうだよなって。 でもこういうのも書いてみたいし見てみたいよなっていう欲求を優先しました……。