「うーん」
先ほどから「あー」とか「うー」などと唸りながら、ナックルズが机に向かっている。子どものように鉛筆をかじったり、かと思えば頭をぼりぼりと掻いたり、一体何事だろうか。シャドウは草臥れたソファにもたれて本を読みながらも、壁の時計にちらりと目をやった。
「…………」
久々にGUN本部へ有給休暇を申請したシャドウは、今日はナックルズと二人きり、エンジェルアイランドでゆっくりと過ごすつもりだった。だというのに、「五分待て」が「あと十分」になり——そろそろ彼の家に来てから一時間近くが経とうとしている。言われた通り大人しく待ってはいたものの、この調子では文字に集中できそうにない。シャドウはぱたりと本を閉じると、ソファを離れてナックルズのそばまで行くことにした。後ろから彼の手元を覗き込めば、真っ白な一枚の紙が目に入る。
「何をやっているんだ、さっきから」
「うわ! お前いたのかよ!」
「……あのな、僕を家に誘ったのは君の方だろう。まったく……。で、もう一度聞くが、一体何を書いているんだ?」
「あー……。その、えーと……。ラブレター、ってやつ」
「は?」
ラブレター? この口より先に手が出るような、不器用な男が? シャドウの頭の中には、一瞬にして疑問符が五億個ほど浮かんだ。
「待て、ちょっと待ってくれ。誰に渡すつもりなんだ」
「誰にって……、そんなもん、お前に決まってるだろうが。でも、やっぱり全然ダメだな。あー、わっかんねえ。こういうのって何をどう書けばいいんだあ?」
「……それを僕に聞くのか、君は」
シャドウは深いため息をついたが、ナックルズはいたって真剣な顔で腕を組み、首を傾げている。
「仕方ない。教えてやるから耳を貸せ」
「お、本当か? ありがとな……って、お、おい!」
彼はナックルズの肩を抱き寄せると、鉛筆を固く握ったままの拳に、自らの手をそっと重ねた。
「ちょ、お前……!」
「簡単なことだ。好きだ、とひとこと書けばいい」
真っ赤になっている恋人の額に、シャドウは優しくキスをした。
あとがき
超絶短い。なんでこんな短いかっていうと、SS名刺メーカーさんの提供している「L版SSメーカー」というツールで作成できる画像におさまるくらいの短編を書く必要があったため。ゆーてこれでも850字くらいある。こんな短い1000字以下の字数でさえ、設定できる一番小さいかなり文字サイズにしてぎりっぎり収まるくらい。やっぱ短い話書くのって難しいよ。もちろん長文書くのも難しいけどさ……。書くきっかけも「ラブレターの書き方を渡す相手本人に聞いちゃうナックルズ」ってネタを思いついた)から書いたっていう。ある意味いつも「なんも書けね~」って苦しんでる私の経験の反映とも言える。ていうか書いてて思ったけどブムナコみてーだ……ブムナコならニコニコしながらこういうことやりそう……。
現在完全自己満足のサイトをローカルで作っているんだけど、そこに画像形式で読める短編を置きたかったという。勿体ないからこっちにも上げることにしました。
(2025.6.23掲載)