『夜明けのそばで』

 天空に浮かぶ神秘の島、エンジェルアイランド。静寂に包まれた楽園に、黒い影が舞い降りた。地平線の彼方には沈んでいく月と、昇る太陽。彼は朝靄の中、ゆっくりと歩みを進めた。あたり一面に咲いた董が、春の訪れを告げるそよ風に揺れている。花畑を越えた先、巨大なエメラルドを祀った祭壇には、彼の想い人の姿があった。
「ナックルズ」
 彼は日の出を——いや、傍の宝石を見つめていたのであろう老人の名を呟いた。声の主に気付いたのか、老人の顔は一瞬だけ輝いたものの、すぐに顰め面へと変わった。祭壇のてっぺんから怒声が響き渡る。
「シャドウ! てめえ、何が『明日の朝には戻る』だ、この野郎。俺が耄碌したと思ってるなら、大間違いだ! いいか、教えてやる。お前がこの年寄りを置いていってもう三日だぞ。三日だ! 一体どこをほっつき歩いていやがった、え?」
「今日はまた随分とお喋りだな。よっぽど寂しかったのか?」
「う」
 シャドウは祭壇に近づきながらくすくすと笑った。図星だったのか、ナックルズは明らかに言葉に詰まっている。シャドウはわざと恋人の反応を無視し、火照った頬と、少し乾いた唇にキスをした。
「予定より任務が長引いてしまったんだ。すまない。僕を許してくれ」
「いーや、駄目だ! またお前はそうやって俺のことを丸め込もうと……!」
「どうしても、か?」
 シャドウはナックルズの胸に鼻先を埋め、口づけた。ほのかな温かさと、心臓の鼓動が伝わってくる。
「し、仕方のねえやつだな……。分かった、許してやるよ……」
 ナックルズの燃えるように鮮やかだった赤い髪は、いまやすっかり色褪せ、あちこち白髪が混ざっている。黒く艶やかなシャドウの被毛とは対照的だ。痩せた体や、顔に刻まれた深い皺も、彼がどれだけの月日を過ごしてきたのかを物語っていた。エキドゥナ族最後の酋長は、死ぬまでその役目を果たし続けるだろう。そう、死ぬまで——。
 じわじわと迫る終わりから逃れるように、シャドウはナックルズを抱き締めた。
「どんなに歳を重ねても、君は美しい」
「阿保か。俺みたいなジジイつかまえて何が『美しい』だ、まったく……。お前はいつまで経ってもそうやって青臭いこと言いやがって」
 二人の薬指に嵌まった指輪は、朝日を受けて金色に煌めいていた。



あとがき

これも1000字以内というか、900字前後で収まる範囲で書いたネタ。永遠に歳をとらない究極生命体と、一族最後の生き残りでありながら確実に老いてゆくし、やがては死を迎えるであろうナックルズにエモさを感じたので……。マスターエメラルドの謎パワーで半強制的に不老不死になって守護者やってるナックルズもいいんですけどね。そういうのもいつか書いてみたい。最後に指輪で〆るシーン、そういや以前出した遊了プレリボ200字SS本でも書いてたな……って下書きが終わってから思った。でもいいや。好きなので……。(2025.12.20掲載)