ハロウィンの葵さん一家(前編)


 ハイブレが全話配信が終了してしばらく経ち、娘のめいもすっかりクラスのお友達と一緒に新しいアニメにハマっちゃったみたい。最初は 娘に置いていかれたようで寂しかったけど、見てみたらこれがまたハイブレに負けないくらい面白い!
 というわけで私はハイブレも楽しみつつ新しいジャンルも、と充実したオタク生活を送っていた。

 季節は流れて10月の1日。なんだか急に涼しくなってグッと過ごしやすくなってきた。ついこの間までは暑くて仕方がなかったのに、何やらいつの間にか秋らしくなってきた、という感じ。 毎日忙しいと時間はあっという間に過ぎちゃうなあ……。

「めいちゃん、今日は保育園どうだった〜?」
「まま〜、せんせーがね、これおうちのひとにわたしてね!っていってたよ!」
無事にお迎えも終わり、帰宅してから娘に保育園での様子を尋ねると、はいどうぞ!と元気よくプリントを手渡される。そういえば今日は月初。保育園から保護者向けのお便りがある日だった。すぐに目を通す。なになにえ〜と、 秋のお芋掘りのお知らせ、あと秋から冬にかけては一層風邪やインフルエンザに注意して、家庭でもうがい手洗いの指導をしっかりと。そして……。
「あっそうだ、ハロウィンパーティーお楽しみ会かあ……もうそんな時期なのねえ」
「めいのおともだちがね、○○のおようふくつくってもらうんだって!めいも○○のおようふくきたいよ〜!おそろいにするっておやくそくしたの!」
お友達と集まってかわいい衣装を着て、お菓子を食べたり先生と一緒に室内ゲームをしたり。めいの通う保育園で 毎年行っているハロウィンパーティーお楽しみ会は、子供たちにとってまさに夢の1日。去年初めて参加しためいはそれはもう大はしゃぎ!今年もいまからお楽しみ会が待ちきれないらしく、ままおようふくつくって〜!とぴょんぴょん飛び跳ねて興奮している。
「わかったわかった、めいちゃん今からそんなに楽しみなのね!」
「うん!」
「じゃあ一緒にお洋服つくろっか!次の日曜日はみんなでお買い物しに行こうね!」

 さて、日曜日がやってくるのはあっという間。
 デパートでお楽しみ会用に持ち寄るお菓子のために食品売り場、そして次に手芸用品に百均。そして最後にハロウィン用の飾り付けコーナーを見るためにおもちゃ売り場に寄ってみる。
 ――世の中のパパとママには魔のゾーン、地獄の一丁目おもちゃ売り場。ここを通る時はめいがいつ「これほしい〜」 と言い出さないかひやひやするし、「買わないよ〜」と加勢してもらうために今日はパパにも来てらわなきゃ……。そう思っていた私の不安は見事に的中した。
「まま〜、めいこれほしい〜!」
あ~やっぱりさっそく来た!しかも指さしているそれは今大人気の○○のおもちゃ!おまけに、た……高い!!
「買わない!買わないよ〜、めいちゃん!ママは今日、お楽しみ会のお買い物の分しか買わないの!」
「でもまま〜!」
「うっ……!」
推してるジャンルのグッズが欲しい気持ち……分かる!痛いほど!でも心を鬼にしなくちゃ……! 娘の教育のためにも!そして家計のためにも!
「買ーわーなーい!めいちゃん!今日ここでおもちゃ買っちゃうとお楽しみ会のお洋服が作れなくなっちゃうよ!ね?!」
「う〜!やだ!ほしい!めいこれほしいの〜!」
「こらッ!めい!ワガママ言わない!」
めいの肩をしっかと掴み、目をまっすぐと見つめて言い聞かせる。あーむくれてる!あー目がうるうるしてる泣きそう!こんな所で泣かないで〜お願い〜!
「ほらめい、ママがお洋服作れなくなっちゃうって。お友達とお揃いにするってお約束したんだろう?めいがお約束破ったりしたら、お友達はがっかりしちゃうんじゃないかな?」
ナイスパパ!!お友達、そしてお約束。その言葉にハッとした表情のめい。こ、これは……!
「う〜ん……。う〜ん……!……めい、がまんする!だってお約束したもん!」
よっしゃ!と心の中でガッツポーズをする。ああ、パパから後光が差して見える……!
「めいちゃん、偉いね!」
お友達との約束のためにちゃんと我慢できたことを二人でしっかり褒めてあげて頭を撫でると、さっきまで泣きそうになっていためいも、いくらか機嫌が直ったみたい。さあ難所は越えた、まためいの気が変わらないうちに必要なものを見て早くここは済ませよう……。
「う~ん、それにしても……」
 おもちゃ売り場もちょっと見ないうちに様変わりして、今では○○のグッズでいっぱいみたい。あんなに所狭しと並んでいたハイブレの商品はどこにいったのかな……?
「あ……」
ふと目に入った在庫処分用ワゴンに私の目は一気に釘付けになる。 あれは!見間違えるはずもない!ハイブレのロゴ! しかもLさんの持ってる武器!Twitterで見た情報によれば声優さんの撮り下ろしボイスが入っていて光る!震える!音が出る!というアレ(価格:税込6,380円)だ~!
 ああっLさんの武器が70%オフのシールを付けられてお買い得ワゴン行きに……! なんか切ない……! 正直すごく欲しい!けどめいに我慢させた手前そんな大人気ないことはできない……!
「アッ……アッ……」
「ねえねえ、まま〜、どうしたの?はやくおかいものしようよ〜。 めい、おなかすいた~!」
「え?!そ……そうだね!ごめんね!」
知らぬうちに放心状態になっていたようで、めいが首を傾げてこちらを見つめていた。
「はは、なんだめい!泣いたらおなか空いちゃったのか? よーし、じゃあ買い物したらアイスでも皆で食べようか」
「やった~! アイスアイス~!」
「あっ! もう、パパってば勝手に……。はあ……」
結局断腸の思いでワゴンから離れ、ハロウィン用のグッズを買ったあとは逃げるようにその場を後にした。

 デパートで歩き回ったら疲れたのか、その日の夜はめいはすぐにぐっすりと寝入ってくれた。 さあこれからが私の時間! ハロウィンという一大イベントに世の腐女子たちがここぞとばかりに萌えの詰まった作品をたくさんアップする季節なのは 今も昔も変わっていない。 もちろん私もその中の1人。 現役復帰してから久々のハロウィンネタ。 気合い入れて書かなきゃ!とこの数日間は当日にTwitterにアップする予定の短編に取り組んでいて、大体は書き終わっていた。 けれども。
「う〜ん……やっぱりどうにもオチがうまく決まらないのよね。 こんな時は無理に書こうとしないで、しばらく寝かせておくのもアリかもね。 まだ結構時間あるし!」
 それから毎日の家事や、めいとの衣装作りの合間に頑張って納得のいくオチを書こうとしていたけれども、どうにも上手くいかなかった。 そして気が付くとすっかりハロウィンの当日……! ど、どう考えても、やばい。 まだ全然最後まで仕上がってないのに……!
 今日はハロウィンパーティーお楽しみ会にめいも連れて行かなきゃいけないし、諦めるしかないの……?!

後編