めちゃくちゃ良作ホラー! 配信やDVDなら一時停止や音を小さくしたりと怖い時に対処が可能だが、映画館には逃げ場がないぜ!
途中「ここのシーン多分事務所からの方針で絶対撮らなきゃいけなかったんだろうな……」と大人の事情を感じる場面もあったものの、演じてるアイドルさんたちも特に大根なんてこともなく、日常生活の中にじわじわ侵食してくる恐怖を味わうことが出来た。
以下、若干ネタバレしつつの感想。
「みんなを巻き込みたいです☆」とか言ってる女には絶対に関わらない方がいい(教訓)
ネットとか見てても思うけどさあ、他人を振り回すタイプの人間、コントロールしやすい相手や自分に同情を向けてくれる相手を見つけるのにめちゃくちゃ長けてないか? 最初の犠牲者の一人でもあるADのあすかちゃん、多分さなに気に入られちゃったんだろうなあ。三十年間放置されていたお便りに紛れていたカセットテープの封を「ひっどおい、開けてすらいないなんて……」と切っちゃうし。自分からカセットレコーダー借りて聴いちゃうし。あーあ。ちなみにさなの担任の先生も似たようなタイプというか、丸顔で髪が長く、お人好しで真面目そうなところとかがさあ……。怖いと思ってるのになんだかんだ気にかけちゃうところがさ。もうね、嗅ぎ分けてんだろうね。
パンフを見ていたら「さなは大切な人の死をきっかけに歪んだ」みたいなこと書いてあって、でもそんなシーン無かったよな? って思って。不可解だったのがお腹の大きく出産を控えたお母さんと、公式サイトで「さなの弟」と紹介されていた男の子のイメージ。でもこれをイコールで繋げることには違和感がある。で、もしかして弟はさながおかしくなる前に亡くなっているのか? と。お母さんが寝ている傍らに置いてある赤ちゃんの産着に「としお」って書いてあるんだけどさ。生まれる前から赤ちゃんの産着用意するか……? ってなるじゃん。しかも名前付きの。これ、以前としおくんが使っていたものってことなんじゃないだろうか。
ここからはあくまで自分の想像でしかないんだけど、多分さな自身は弟のことは大切に想っていたんだけれど、なんらかの事故で彼を失ってしまった。お母さんはさなが変わった子なのを知っているので、「さなが弟に何かしたのではないか」と思ってる。「私の赤ちゃんどこやったのよおおおおおお」とか先生が訪問した際の娘へのビンタもそれで説明がつく気がする。お前がやったんだろ……。お前がやったんだろ!!
一方のさなは不幸にも「弟が今際の際に発した『魂の声』」に強烈に魅せられてしまった、ってとこだろーか。だからお母さんの布団に潜り込んでたシーンはひょっとしたら純粋にまた弟が母のお腹に戻ってきて、生きている「音」を聴いて嬉しかったのかもしれない。それはそれとしてすっげえ怖いけど。おそらくだけど、彼女はあくまで「音」に執着しているだけなので、殺そうと思って殺してるわけではないんだと思う。まあそれこそが邪悪でクッソ迷惑なところなんだが……。
個人的に印象に残った人は中務裕太さん。なんていうか、幽霊とか周りの人との掛け合いというか、すごく味を感じた。「見ない方がいいっすよ」とか「ここ13階ですよね……」とか、もう説明する必要ないと思うけど家でのシーンとか。誰もいないと分かっていてもお家にお邪魔すると挨拶しちゃうよな。分かる。「あ、いえ、むしろこんなところまですみません……」はめっちゃ日本人してるな……と思うと同時に、明らかにやべえ状況にいる時になんとか難を逃れようと冷静に対処しようとしちゃうところに恐怖と笑いが半々になった。
やっぱ日本のホラーの醍醐味って、「日常と地続きの恐怖」が売りだなあと改めて思った。高谷家のお父さんもお母さんも、多分全然普通の人だったんだよ。お父さんと娘であるさなの会話なんかも、「こういう親子いそうだよなあ」と。そう、親子の会話と言えば主人公の権田と娘のシーンもあったな。電話だけど。そう、家に帰って娘と話すチャンスがありながら――権田は結局、泊まったホテルから娘に電話をかけたんだ。気心が知れている、肉親という近しい間柄ゆえに、直接会ってコミュニケーションをしないという悲劇。さなのお父さんがあのとき、ドア越しに聞こえてくる娘の話を無視して、階段を上がって部屋の中を見ていれば。お母さんが「部屋の掃除しなさい」で済ませていなければ。こんなことにはならなかったのかもしれない。
しかし問題はあのカセットテープ、結局誰がラジオ局に送ったのだろうか。個人的にはあくまでも生きている時のさなが自分でウッキウキしながら送ったか、それか父親が娘に「ねえお父さん、これ送っておいて~」って頼まれたとかであって欲しい。幽霊が送りました~、よりもそっちの方が怖くない?